「ワルプルギスの廻天」をもっと楽しむためのQ&A

1回観ただけじゃよく分からないですよね

みなさん,「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」を楽しんでいますか。筆者はまだ6廻天目ですが,観るたびに新鮮な発見があり,上映終了まで長く楽しみたいと思っています。

ただ,すっかり「ワルプルギスの廻天」にハマっている筆者も,最初に観終えたときは,正直にいってチンプンカンプンでした。1回観ただけじゃなんも分からん!

ワスとは何者なのか。紫丁香やセルマ・テレーゼは何を目的に動いているのか。「名塚底常」とはどんな場所なのか。そもそも,なぜ「円環の理」に導かれたはずの魔法少女たちが現世へ戻ってきているのか。

次々と新しい設定や謎が提示されるうえ,終盤ではほむらやまどかの思いまで複雑に絡み合ってくるため,筆者自身,初見では理解しきれない部分がかなりありました。

しかし,何度か見返し,設定やキャラクターたちの目的をひとつずつ整理していくと,「あの場面はこういう意味だったのか」「だからこのキャラクターはこんな行動をしていたのか」と,少しずつ物語がつながっていきます。

そこで本稿では,筆者自身が「ワルプルギスの廻天」を見て疑問に思ったことや,初見では分かりにくかったポイントをQ&A形式で整理していきます。あくまでも筆者目線での理解や解釈になりますが。

「叛逆の物語」後の世界がどうなっているのかという基本的な部分から,新たに登場した3人の魔法少女,名塚底常やワルプルギスの夜の正体,そして物語終盤に残された謎まで,順番に振り返っていきましょう。

なお,本稿は「ワルプルギスの廻天」の物語全編にわたる重大なネタバレを含みます。未鑑賞の人はご注意ください。

  1. Q1. 「ワルプルギスの廻天」は,そもそもどんな世界から始まる?
  2. Q2. 悪魔ほむらは,この世界で何をしている?
  3. Q3. 冒頭の少女Aは何者? なぜ一時的に魔法少女になれる?
  4. Q4. ワス,紫丁香,セルマ・テレーゼの3人は何者?
  5. Q5. なぜ見滝原組は,新しく現れた3人といつの間にか仲良くなっている?
  6. Q6. 「名塚底常」とは,そもそも何?
  7. Q7. なぜ円環の理に導かれた3人が,現世へ戻ることができた?
  8. Q8. ワスの正体は? ワルプルギスの夜とどういう関係?
  9. Q9. なぜワスは,まどかを「マルグリート」と呼ぶ?
  10. Q10. 紫丁香は,なぜ突然まどかを襲った?
  11. Q11. 丁香との出会いで,なぜまどかに「円環の理」の記憶が戻り始めた?
  12. Q12. セルマは何を求めている? なぜまどかを魔女にした?
  13. Q13. まどかが魔女になったのに,なぜキュゥべえの求めるエネルギーは生まれなかった?
  14. Q14. なぎさの「役立たずのまま笑っていてほしかった」とはどういう意味?
  15. Q15. 現世へ戻ってきたワス,丁香,セルマは,最後にどうなった?
  16. Q16. ほむらは,なぜ一度まどかを諦めた?
  17. Q17. なぜさやかたちは,最後にほむらの背中を押した?
  18. Q18. まどかは,最後に何を決断した?
  19. Q19. エンドロールの白と黒の足跡は,何を意味する?
  20. Q20. なぜキュゥべえは,最後に名塚底常へ興味を示した?
  21. Q21. 最後に鳴る電話は,何を意味している?
  22. 最後に

Q1. 「ワルプルギスの廻天」は,そもそもどんな世界から始まる?

「ワルプルギスの廻天」は,2013年に公開された「[新編]叛逆の物語」の直接的な続編です。そのため,まずは「叛逆の物語」の最後で世界がどう変化したのかを簡単に振り返っておきましょう。

TVシリーズの最終話で,鹿目まどかは「すべての魔女を,生まれる前に消し去りたい」と願い,自らがすべての魔法少女を魔女になる前に救済する「円環の理」となりました。しかし「叛逆の物語」の終盤で,暁美ほむらは円環の理となったまどかから「人間としての鹿目まどか」を切り離します。

そして,自らを「悪魔」と称する存在へと変化させ,まどかが再び一人の少女として家族や友人たちと暮らせるよう,世界そのものを書き換えました。

「ワルプルギスの廻天」が始まるのは,その後の世界です。

人間として暮らす鹿目まどかと,魔法少女を救済する「円環の理」が切り離され,本来ひとつだった存在が別々になっている。劇中でいう「円環の理を失った世界」とは,まずこの状態だと考えると分かりやすいでしょう。

Q2. 悪魔ほむらは,この世界で何をしている?

「叛逆の物語」で世界を書き換えたほむらですが,そこで役目を終えたわけではありません。

「ワルプルギスの廻天」では,自分が作り上げた世界に異常が起きないよう,「悪魔」としてその世界を維持・管理しています。

脚本を担当した虚淵玄氏は,現在のほむらについて「黒幕というよりゲームキーパー」であり,「シムシティのプレイヤーのようなもの」という趣旨の説明をしています。

ほむらが守ろうとしているのは,まどかが「円環の理」という役割を背負うことなく,一人の普通の少女として家族や友人たちと暮らせる世界です。

そのため,キュゥべえの行動を監視したり,魔獣への対処方法を用意したりしながら,自分が作った世界を維持し続けています。

ただし,ほむらがすべてを思いどおりにできているわけではありません。物語が進むにつれて,ほむらの想定していなかった存在や出来事が次々と現れ始めます。

その代表ともいえるのが,ワス,紫丁香,セルマ・テレーゼの3人です。

Q3. 冒頭の少女Aは何者? なぜ一時的に魔法少女になれる?

本作の冒頭に登場するのが,同級生からいじめを受け,精神的に追い詰められている少女Aです。

彼女は,悩みを抱えた少女の願いを叶えてくれるという「トカゲさん電話」に助けを求め,ほむらと接触します。

その後,一時的に魔法少女のような姿となり,街に現れた魔獣と戦うことになります。

ただし,少女Aはキュゥべえと契約した従来の魔法少女ではありません。与えられる力は一時的なもので,戦いが終わればその力を失い,戦っていたあいだの記憶も消去されます。

ファンのあいだでは「タイミー魔法少女」とも呼ばれている仕組みですが,これは新たな魔法少女を増やすことなく魔獣を処理するために,ほむらが用意したシステムと考えられます。

少女Aたちが倒した魔獣からは「グリーフキューブ」が得られ,それを既存の魔法少女たちのソウルジェム浄化に利用できます。

つまり,新たにキュゥべえと契約する少女を生み出さずに魔獣を倒し,その結果として既存の魔法少女たちも守る。

少女Aのエピソードは,本作の重要人物を新たに紹介するためのものではなく,悪魔ほむらがどのような仕組みで世界を維持しているのかを見せる導入と考えると分かりやすいでしょう。

Q4. ワス,紫丁香,セルマ・テレーゼの3人は何者?

ほむらが作り上げた世界に現れる大きなイレギュラーが,「名前のない上級生/ワス」「紫丁香」「セルマ・テレーゼ」の3人です。

3人に共通しているのは,かつて魔法少女として「円環の理」に導かれたあと,本来なら戻れないはずの現世へ再び戻ってきた存在であるということです。

ただし,3人が同じ目的で行動しているわけではありません。

丁香は,ほむらによって失われた「円環の理」を取り戻そうとしています。

セルマは,「誰かの役に立ちたい」「愛されたい」という思いを強く抱いており,その願いがキュゥべえの思想と結びついて行動しています。

そしてワスが求めているのは,自分が何者なのか,そして自分の「名前」は何なのかという答えです。

つまり3人は,いずれも円環の理から現世へ戻ってきたという共通点を持ちながら,それぞれまったく異なる目的で動いています。これが物語を初見で理解しにくい要因にもなっているように思います。

Q5. なぜ見滝原組は,新しく現れた3人といつの間にか仲良くなっている?

本作では,見滝原の魔法少女たちとワス,丁香,セルマの3人が,バーのような場所で当たり前のように一緒に過ごしている場面があります。しかし,その状況に違和感を覚えているのがさやかです。

それまで明確に仲間だったわけでもない3人と,いつの間にか自然に交流していることに対して,さやか自身も「なぜみんな普通に仲良くしているのか」という疑問を抱いています。

このことから,少なくともこの状況自体が,作中でもどこか不自然なものとして描かれていることは確かです。ただし,なぜ見滝原組が3人を自然に受け入れているのか,その原因までは明言されていません。

3人がほむらの世界へ入り込む過程で,周囲の記憶や認識に何らかの影響が生じていた可能性も考えられますが,セルマによる幻惑や認識操作など,特定のキャラクターの能力によるものだと断定できる材料はありません。

また,すべての交流が偽物というわけでもなく,丁香と杏子,セルマとなぎさのように,実際に交流を深めていった組み合わせも存在します。

そのため現時点では,「なぜか3人が自然に見滝原組のなかへ溶け込んでいる」という違和感そのものが意図的に描かれている一方で,その仕組みや原因についてはまだ明確な答えが示されていない,と考えるのがよさそうです。

Q6. 「名塚底常」とは,そもそも何?

ワス,丁香,セルマの3人が現世へ戻る際に経由したのが,「名塚底常(なづかそこつね)」と呼ばれる空間です。

名塚底常は,「呪い」と化した魔法少女に,魔女としての新たな名前と身体,性質を与える救済システムです。同時に,すべての魔女の名前や情報が記録された「魔女図鑑」の収蔵庫でもあります。

名塚底常を生み出したのは,はるか昔に存在した魔法少女マルグリートです。マルグリートは,苦しむ魔法少女たちを救うため,彼女たちの呪いを引き受け続けていました。

しかし,やがて自分自身も呪いと化してしまいます。

そこで最後の力を使い,呪いとなった少女たちに新たな名前と姿を与え,その存在を記録する仕組みとして名塚底常を作り出しました。

円環の理が「魔法少女を魔女になる前に救う仕組み」だとすれば,名塚底常は「すでに呪いとなった少女に魔女としての個を与え,その存在を残す仕組み」と考えると分かりやすいでしょう。

さらに重要なのが,名塚底常は,ほむらたちが存在する宇宙の外側にあるという点です。そのため悪魔ほむらの力も及ばず,「円環の理」からも認識されないまま存在していました。

この特殊な立ち位置が,本作で大きな意味を持つことになります。

Q7. なぜ円環の理に導かれた3人が,現世へ戻ることができた?

本来,「円環の理」に導かれた魔法少女が再び現世へ戻ってくることはありません。それにもかかわらず,ワス,丁香,セルマの3人は現世へ戻っています。

その背景にあると考えられるのが,「叛逆の物語」でほむらが円環の理から「人間としての鹿目まどか」を切り離したことです。

人間のまどかと円環の理が引き裂かれたことで,円環の理はそれまでとは異なる不完全な状態になりました。

そして,円環の理からも認識されていなかった名塚底常が,いわばそのシステムの“抜け道”のような役割を果たすことになります。

その結果,本来であれば円環の理に導かれたまま現世へ戻れなかったワスたちの魂が,名塚底常を経由して再び現世へ現れることが可能になってしまったのです。

つまり,本作で3人が現れたこと自体が,「叛逆の物語」でほむらが円環の理を引き裂いたことによって生じた,新たな世界のほころびのひとつと考えられます。

Q8. ワスの正体は? ワルプルギスの夜とどういう関係?

「ワルプルギスの廻天」で,もっとも謎の多い存在として登場するのが「名前のない上級生/ワス」です。ほむらとよく似た姿を持ちながら,自分の本当の名前も正体も知らない。そして,なぜかまどかを「マルグリート」と呼びながら接近してきます。

そんなワスの正体は,TVシリーズでほむらが何度も戦ってきた「ワルプルギスの夜」と深く結びついています。

ワルプルギスの夜が複数の存在による集合体であること自体は,TVシリーズ当時から示唆されていました。公式「魔女図鑑」でも,「誰も知らない誰かたち」が集まった存在として描かれています。

「ワルプルギスの廻天」で新たに描かれたのは,その集合体がどのような存在によって形作られていたのかという背景です。

名塚底常が生まれる以前,絶望した魔法少女たちは,後世の魔女のように新しい名前や姿を与えられることなく,「呪い」として存在していました。そして,名塚底常が作られた時点ですでに呪いとなっていた少女たちは,そこから新たな名前を与えてもらうことができませんでした。

そうした「名前を持たない呪い」が集まり,巨大な集合体となったものが「ワルプルギスの夜」です。

名塚底常を作り出したマルグリート自身も,それ以前に呪いとなっていたため,その集合体のなかに含まれています。つまりワスは,「かつてマルグリートだった少女が,そのまま現世へ戻ってきた存在」ではありません。

マルグリートを含む,名塚底常が生まれる以前に名前を持てないまま呪いとなった魔法少女たちの集合体――それがワルプルギスの夜であり,ワスはその存在と深く結びついた少女なのです。

Q9. なぜワスは,まどかを「マルグリート」と呼ぶ?

マルグリートは,かつて苦しむ魔法少女たちを救おうとし,彼女たちの呪いを引き受け続けていました。しかし,すべての魔法少女を救うことはできず,最後には自身も呪いとなってしまいます。

一方,鹿目まどかはTVシリーズの最後に「すべての魔女を,生まれる前に消し去りたい」と願い,「円環の理」となることで,マルグリートが果たせなかった魔法少女の救済を実現しました。

そのためワスは,自分のなかに残るマルグリートの記憶や願いと,目の前にいるまどかを重ね合わせ,彼女を「マルグリート」と呼んでいたと考えられます。

そして,ワスが探しているのはマルグリートだけではありません。自分自身が何者なのか,自分にはどんな名前があるのかという答えも求め続けています。

名塚底常が生まれる前に呪いとなったため,ワスを構成する少女たちは「魔女としての名前」を与えられることがありませんでした。

つまりワスが「マルグリート」を探す行為は,自分たちを救ってくれる存在を求めると同時に,「自分はいったい何者なのか」「自分の名前は何なのか」を探す行為でもあったのです。

Q10. 紫丁香は,なぜ突然まどかを襲った?

紫丁香は,ワス,セルマと共に現世へ戻ってきた魔法少女の一人です。彼女の目的は,ほむらによって失われた「円環の理」を取り戻すこと。

そのため,ほむらによって作り替えられた現在の世界を「本来あるべき姿ではない」と考えており,円環の理を元に戻すためであれば,その要となっている鹿目まどかを傷つけることも辞さない危うさを持っています。

ただし,普段の丁香は常に攻撃的なわけではありません。まどかたちとスイーツ店を訪れた際には,マミや杏子たちと普通に会話を交わし,とくに杏子とは気が合う様子も見せています。

そんな丁香の態度が変わるきっかけとなるのが,その場で交わされた食べ物についての何気ない会話です。丁香は,食べ物を残すことに対して強い反応を見せ,そこから人間だったころの記憶を呼び起こされていきます。

劇中では丁香の過去が断片的に描かれており,魔法少女になった際の具体的な願いまでは明言されていません。分かっているのは,彼女が「家族のため」に契約したということです。

回想では大量のケーキが印象的に描かれているため,「父親のためにたくさんのケーキを用意したい」といった,家族を喜ばせるための願いだった可能性も考えられます。また,丁香自身が病弱だったようにも見えますが,病気を治すことそのものを願ったのかは不明です。

一方,丁香がケーキを届けようとしたときには,父親はすでに自ら命を絶っていたように描かれています。家族のために魔法少女となり,なんらかの形で家族を喜ばせようとしたものの,それは間に合わなかった。

こうした過去があるからこそ,丁香は食べ物が無駄になることに強く反応し,スイーツ店での何気ないやり取りをきっかけに感情を大きく揺さぶられたのだと考えられます。

そして過去の記憶を呼び起こされた丁香は店をあとにし,追いかけてきたまどかに自分の正体を明かします。そのうえで,ほむらによって改変された世界を元に戻し,「円環の理」を取り戻すため,まどかへ攻撃を仕掛けることになるのです。

Q11. 丁香との出会いで,なぜまどかに「円環の理」の記憶が戻り始めた?

丁香の攻撃は杏子によって阻止されます。しかし,その後,魔女の姿となって苦しむ丁香を目にしたことで,今度はまどか自身に変化が起こります。

まどかは丁香を見捨てることができず,彼女のもとへ駆け寄ります。すると,まどかのなかに「円環の理」であったころの記憶や力が表面化し,丁香が抱えてきた苦しみに触れていきます。

そして,丁香に手を差し伸べ,彼女を抱きしめて救おうとします。

ここで重要なのは,まどかが最初から「円環の理へ戻ろう」と考えていたわけではないという点です。苦しんでいる丁香を目の前にして放っておけず,自分から手を差し伸べた結果として,「円環の理」だったころの記憶や力がよみがえり始めます。

ほむらが守りたいのは,円環の理としての役割から解放され,一人の少女として暮らす鹿目まどかです。しかし,まどかは誰かの苦しみを知れば,自分からその人を救おうとしてしまう少女でもあります。

つまりこの場面は,「変わってほしくないと願うほむら」と,「誰かとの出会いによって変わっていくまどか」という二人の違いが,はっきりと表れ始める場面でもあるのです。

Q12. セルマは何を求めている? なぜまどかを魔女にした?

セルマ・テレーゼは,明るく活発で,「誰かの役に立つこと」を強く望んでいる少女です。その根底には,ただ人助けが好きというだけではなく,「必要とされたい」「愛されたい」という思いがあったように見えます。

そして,そんなセルマの考え方と結びついたのが,キュゥべえの思想です。キュゥべえは,魔法少女が絶望して魔女となる際に発生するエネルギーを回収し,宇宙の寿命を延ばしています。

セルマにとっては,魔法少女が最後に魔女となり,宇宙のためにエネルギーを生み出すことも「誰かの役に立つ」行為のひとつでした。

一方,「円環の理」は魔法少女を魔女になる直前に救済します。セルマからすれば,それは魔法少女が最後に果たせるはずだった「役割」を奪ってしまう仕組みでもあったのでしょう。

そこでセルマは,丁香とまどかの接触に割って入り,まどかを連れ去ります。そして,名塚底常に収蔵されていた魔女図鑑から「救済の魔女」のページを抜き取り,その記録を利用してまどかを強制的に魔女化させます。

TVシリーズでまどかが魔女となった際に生まれた「救済の魔女」を,名塚底常に残されていた記録から再現しようとしたわけです。

この場面は,名塚底常が単に魔女の情報を保存しているだけではなく,そこに残された記録そのものが現実へ影響を及ぼし得ることを示す描写としても重要です。

また,名塚底常から「救済の魔女」のページが抜き取られたままになっていることも気になるところです。これが今後の物語でどのような意味を持つのかは分かりませんが,続編が描かれるのであれば,ひとつの伏線になる可能性もありそうです。

Q13. まどかが魔女になったのに,なぜキュゥべえの求めるエネルギーは生まれなかった?

セルマはまどかを「救済の魔女」の姿へ変えることには成功します。しかし,肝心のキュゥべえが求めているエネルギーは生まれません。ここで重要なのが,魔女化によってエネルギーが生まれる仕組みです。

キュゥべえが必要としているのは,単純に「魔女が誕生すれば発生するエネルギー」ではありません。魔法少女が抱いていた希望が絶望へと反転する――その感情の相転移によって生み出されるエネルギーを回収しています。

ところが,セルマが行ったのは,名塚底常に残されていた「救済の魔女」の記録を使い,まどかを外側から強制的に魔女の姿へ変えることでした。

まどか自身が希望から絶望へと転落したわけではありません。そのため,姿は魔女になっていても,キュゥべえが求める感情の相転移は起こらず,エネルギーも発生しなかったのです。

つまりセルマは,誰よりも「宇宙の役に立とう」として行動していたにもかかわらず,その方法ではキュゥべえの目的にまったく貢献できていませんでした。

「誰かの役に立ちたい」と強く願い続けたセルマが,最後までその目的を果たせなかったという意味でも,皮肉な場面になっています。

Q14. なぎさの「役立たずのまま笑っていてほしかった」とはどういう意味?

セルマの物語を理解するうえで重要なのが,百江なぎさとの関係です。

なぎさは,かつて「お菓子の魔女」だったころを含め,過去の記憶を失っていたわけではありません。ただし,なぎさ自身はそうした過去にこだわることなく,マミたちと楽しく過ごしている「いま」を大切にしていました。

そのため,周囲には過去のことを知らないようにも見えていましたが,実際には記憶がなかったのではなく,過去に囚われることを選ばなかったと考えたほうが近いでしょう。

そして最後に,なぎさはセルマへ「役立たずのまま笑っていてほしかった」という言葉を投げかけます。一見すると,非常に冷たい言葉にも聞こえます。しかし,この言葉はセルマを否定しているわけではありません。

セルマは,「誰かの役に立つこと」に強くこだわっていました。誰かの役に立つことで必要とされたい。そして,必要とされることで愛されたかった。だからこそ,宇宙の役に立つことにまで自分の価値を見いだし,キュゥべえの思想に傾倒していったのでしょう。

しかし,なぎさにとっては違いました。

セルマが宇宙の役に立つ必要もなければ,魔女になってエネルギーを生み出す必要もありません。何かを成し遂げなくても,誰かの役に立たなくても,ただセルマがセルマのまま笑っていてくれればよかった。

つまり「役立たずのまま笑っていてほしかった」という言葉には,

「役に立たなくても,あなたには価値がある」
「何もしなくても,あなた自身が大切だった」

という,セルマが最後まで気付くことのできなかった思いが込められていたのだと考えられます。

そう考えると,この言葉は本作のなかでも,かなり切ない意味を持つセリフに聞こえてきます。

Q15. 現世へ戻ってきたワス,丁香,セルマは,最後にどうなった?

名塚底常を経由して現世へ戻ってきたワス,丁香,セルマの3人ですが,物語の終盤ではそれぞれ現世から姿を消していきます。

ここで関係しているのが,3人が持つ「メルトジェム」(ソウルジェムの代わりのもの)です。

3人は一度「円環の理」に導かれた魔法少女であるため,通常の魔法少女と同じ状態で現世に存在しているわけではありません。メルトジェムによって魂を現世につなぎ止めることで,一時的にこの世界へ戻ってきている存在と考えられます。

ワスは,まどかとの出会いを通して,自分とマルグリート,そしてワルプルギスの夜との関係にたどり着きます。

「自分は何者なのか」「自分の名前は何なのか」という答えを求め続けていたワスにとって,まどかとの出会いは,長いあいだ抱えていたものにひとつの答えを与える出来事だったのでしょう。

丁香もまた,苦しむ自分のもとへ駆け寄り,抱きしめてくれたまどかによって救われます。

そして二人は最終的に現世から姿を消し,再び「円環の理」の側へ向かっていったように描かれています。

一方,セルマだけは少し異なります。

セルマはなぎさとの戦いのなかでメルトジェムを破壊され,その場から姿を消します。ただし,これによってセルマそのものが完全に消滅したわけではないようです。

その後に描かれるモノクロの空間には,ワスや丁香と共にセルマの姿も確認できます。そのため,セルマも含めた3人の魂そのものが失われたわけではないと考えられます。

ただ,ワスや丁香と同じように「円環の理へ戻った」と考えてよいのか,モノクロの場面が具体的にどのような状態を示しているのかまでは,劇中では明確に説明されていません。

少なくとも,本作では3人が名塚底常を経由して現世へ戻り,それぞれの目的や過去と向き合った末に,再び現世から姿を消していくところまでが描かれています。

なぜ3人が戻ってくることができたのかだけでなく,「戻ってきた3人が最後にどうなったのか」まで追っておくと,本作におけるワスたちの物語も理解しやすくなるでしょう。

Q16. ほむらは,なぜ一度まどかを諦めた?

セルマによる強制的な魔女化から解放されたまどかは,「円環の理」であったころの記憶を取り戻していきます。

そして,ワルプルギスの夜を救済したあと,ほむらをその場に拘束し,人間としての鹿目まどかから離れて,再び「円環の理」へ戻ろうとします。

ここで,ほむらは一度心を折られてしまいます。

「叛逆の物語」でほむらが世界を書き換えたのは,まどかを「円環の理」という役割から解放し,一人の少女として生きられるようにするためでした。

しかし,そのまどか自身が記憶を取り戻し,再び円環の理へ戻ろうとしている。さらに,ほむらにとって大きかったのが,自分が作り上げた世界で,結果としてまどかを危険にさらしてしまったことです。

実際にまどかを強制的に魔女化させたのはセルマですが,そもそもほむらが「叛逆の物語」でまどかを円環の理から切り離し,この世界に留めていなければ,今回の出来事も起こらなかったはずです。

まどかを救うために作った世界で,そのまどかを危険にさらし,もっとも避けたかったはずの「魔女」にまで変えてしまった。

そのうえ,まどか本人までもが円環の理へ戻ろうとしている。ほむらには,自分がこれまでしてきたことが本当にまどかのためだったのか,分からなくなってしまったようにも見えます。

そうして一度は,自分の願いを押し通すことを諦め,まどかを円環の理へ返そうとするのです。

Q17. なぜさやかたちは,最後にほむらの背中を押した?

ほむらがまどかを諦めようとしたとき,彼女がこれまで経験してきた過去の記憶が周囲に展開され,さやかたちもそれを目にします。

そこで彼女たちは,ほむらが何度も時間を繰り返し,たった一人でまどかを救おうとしてきたことや,そのためにどれほどの思いを抱えてきたのかをあらためて知ることになります。

そして,さやかはほむらの行動を否定するのではなく,もう一度まどかを取り戻すよう背中を押します。マミ,杏子,なぎさもそれに続きます。

さらに,かつて「円環の理」に救われたマルグリート(ワス)と丁香も,ここで重要な意味を持つ言葉をほむらに投げかけます。

自分たちを救ってくれたのは,「円環の理」というシステムそのものではない。その仕組みを生み出し,自分たちを救おうとしてくれた「鹿目まどか」という一人の少女だった。

ここで物語の焦点は,「円環の理というシステムを維持するべきか」ではなく,「鹿目まどかという一人の少女をどうするのか」へと移っていきます。

それまで,まどかを救うことはほむら一人の願いでした。しかし,この場面では違います。ほむらの過去を目の当たりにした仲間たちが,その思いを否定せず,今度は一緒にまどかを取り戻そうとしてくれる。

だからこそ,ほむらは再び悪魔の力を解放し,今度は一人ではなく,仲間たちと共に「円環の理」へ立ち向かうのです。

Q18. まどかは,最後に何を決断した?

仲間たちに背中を押されたほむらは,再び悪魔の力を解放し,見滝原の魔法少女たちと共に「円環の理」から鹿目まどかを取り戻そうとします。

そして激しい衝突のあと,物語は公園のベンチで,まどかに膝枕されながら眠るほむらの姿へと移ります。一見すると,ほむらがまどかを取り戻し,二人が共に過ごせる世界を作り出したようにも見える場面です。

しかし,実際にはほむらは「円環の理」本体との衝突によって倒れており,その傍らでは,人間としてのまどかと「円環の理」が向き合っています。

そして物語の最後,まどかは倒れているほむらに語りかけます。

「ほむらちゃんはさ,自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を大切にしてる?」
「この世界が誰かの思い描いた理想とかけ離れてしまっても,許してくれる?」
「私の最高の友達……」

ここで印象的なのは,まどかがほむらの人生について問いかけていることです。

ほむらはこれまで,まどかを救うために何度も時間を繰り返し,「叛逆の物語」では世界そのものを書き換えました。その人生のほとんどを,まどかを救うことに費やしてきたともいえます。

そんなほむらに対して,今度はまどかが「自分自身の人生や,大切な人たちを本当に大事にしているのか」と問いかけているようにも聞こえます。

また,「この世界が誰かの思い描いた理想とかけ離れてしまっても,許してくれる?」という言葉も意味深です。

この「誰か」が誰を指しているのか,そしてまどかが最終的にどのような答えを選んだのかは,劇中では明確に語られていません。

ただ,本作については「まどかの決断の物語」という趣旨の発言も報告されています。そう考えると,ラストで重要なのは,単純に「ほむらがまどかを円環の理から取り戻せたかどうか」だけではありません。

TVシリーズで「すべての魔法少女を救う」と決断したまどかが,ほむらの思いを知り,「叛逆の物語」と「ワルプルギスの廻天」で起きた出来事を経験したうえで,あらためてどのような答えを出したのか。その答え自体をあえて見せないまま,本作は幕を閉じています。

Q19. エンドロールの白と黒の足跡は,何を意味する?

「ワルプルギスの廻天」のエンドロールでは,まどかを思わせる白い足跡と,ほむらを思わせる黒い足跡が描かれます。

終盤では,共に歩いていた白と黒の足跡から,まどかを思わせる白い足跡だけが離れていきます。素直に考えれば,これはまどかとほむらの「別離」を表現したものなのでしょう。

本編の最後でも,まどかと「円環の理」は姿を消し,その場には眠り続けるほむらだけが残されています。

そのため,白い足跡が離れていく演出とも一致します。

ただし,ひとつ気になるのは,そこで黒い足跡まで止まるわけではないことです。白い足跡が離れたあとも,ほむらを思わせる黒い足跡はそのまま歩き続けています。

もちろん,これが何を意味しているのかは明言されていません。それでも,ほむら自身はそこで立ち止まったわけではなく,まどかを諦めず,これからも歩き続けていくことを示しているようにも見えます。

「ワルプルギスの廻天」の結末を,まどかとほむらの物語の完全な終着点ではなく,その先へ続く途中の地点として見るならば,この黒い足跡もまた,今後の物語を示唆する演出のひとつなのかもしれません。

Q20. なぜキュゥべえは,最後に名塚底常へ興味を示した?

物語の終盤では,キュゥべえが名塚底常という存在に興味を示す描写があります。

名塚底常は,ほむらたちが存在する宇宙の外側にあり,悪魔ほむらの力も及ばず,「円環の理」からすら認識されていなかった特殊な場所です。

そして本作では,そこを経由することで,本来なら円環の理に導かれたまま現世へ戻ることのできないワスたちが,再び現世に現れています。そんな名塚底常の存在を,物語の最後にキュゥべえが認識したことになります。

これが今後どのような意味を持つのかは,現時点では分かりません。ただし,これまで悪魔ほむらや円環の理の管理外にあった名塚底常という仕組みに,インキュベーターが興味を持ったという点は気になります。

キュゥべえが名塚底常を利用しようとするのか,あるいはまったく別の意味を持つ描写なのか。本作だけでは答えは示されておらず,今後の物語へ向けた伏線のひとつとして残された場面と考えておくのがよさそうです。

Q21. 最後に鳴る電話は,何を意味している?

「ワルプルギスの廻天」では,物語の冒頭から「電話」が印象的なモチーフとして登場します。少女Aが「トカゲさん電話」を通してほむらと接触するように,電話は本作のなかで,離れた存在同士をつなぐものとして描かれています。

そして物語の最後にも,再び電話が鳴る場面が描かれます。ただし,この電話が誰から誰へつながっているのか,あるいは具体的に何を意味しているのかは明言されていません。

名塚底常や円環の理との新たな接続を示しているのか,それとも本作の冒頭と終盤をつなぐ演出的なモチーフに過ぎないのかも,現時点では分かりません。

そのため,ここは無理に答えを出すよりも,「まだ何かが終わっていない」ことを感じさせる演出として受け取るのが自然でしょう。

キュゥべえが名塚底常へ興味を示す場面とあわせて考えると,「ワルプルギスの廻天」で描かれた物語の先に,まだ何らかの物語が残されていることを示唆する演出のようにも見えます。

最後に

ここまで,「ワルプルギスの廻天」で分かりにくかったポイントをQ&A形式で整理してきました。
もちろん,本作にはまだ明確な答えが示されていない謎も多く残されています。それでも,ワス,紫丁香,セルマ・テレーゼが何を求めていたのか。名塚底常がどのような場所なのか。なぜほむらが一度まどかを諦め,それでも再び立ち上がったのか。

そうした一つひとつを整理していくと,初見ではバラバラに見えていた出来事が,少しずつ一本の物語としてつながって見えてきます。

もし初見で「よく分からなかった」「もう一度観るか迷っている」という人がいたら,本稿が少しでも物語を整理する手助けになればうれしいです。

そして,この記事を読んだあとにもう一度「ワルプルギスの廻天」を観たとき,「ああ,ここはこういうことだったのか」と新しい発見がひとつでも増えたなら,筆者としてこれほどうれしいことはありません。最後までお読みいただき,ありがとうございました。

©Magica Quartet/Aniplex,Madoka Project

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